季節のおすすめ

頼れる「桐箱」のヒミツ

昔から絹ものの保管に最適といわれてきた桐。
現代の生活に寄り添う桐箱のつくり手の工場でその魅力を探ってきました。

「七緒オリジナル桐小物引き出し売れています!」増田桐箱店 代表取締役 藤井博文さん

切って、組み立て、丁寧に磨く。すべての工程をワンフロアで

日本では着物をしまうなら桐のたんすと昔から決まっていた。桐は高温多湿の日本の気候に適した木材で、防虫性もある。燃えにくいことも昔は重要なことで、そのため着物のような大切な衣服は桐に託すのが最適だったのである。

着物には桐たんすがあるけれど、帯揚げや帯締めはどこに収納しよう?帯揚げサイズの引き出しが、桐製であったらいいのに!と願う七緒編集部が「増田桐箱店」と開発したのが小物専用の引き出しなのだ。改めてこの収納箱の価値を伝えるべく増田桐箱店を訪問することに。出迎えてくれた三代目・藤井博文さんは33歳にして、社長歴はすでに8年!この間に会社はぐんと飛躍して「茶箱など、工芸品の分野では国内でトップのシェアを占めるようになりました」と、顔をほころばせる。

社内改革も若さならではの力で推し進めてきた。そのひとつが製作現場をワンフロアにまとめること。「前日に一部を準備しますが、当日朝から切り出した木材は、その日のうちに出荷まで行ないます。同じフロアだと一日の流れも把握できて、流れが詰まっている場があれば、気づいた人がフォローに行けます」。箱づくりの要所を全員でカバーするから仕上がりも安定。増田桐箱店の近年の評判の裏には、こんな理由があったのだ。

奥から木材の切り場、箱の組み立て場、箱の仕上げ場を配置したフロア。扱う桐箱には自社製品もあれば、贈答品に使われるワイン箱など、あらゆる製造元からのオーダー品が。

軽くて、調湿力抜群。
桐の特質を知り尽くす専門店ならではの技術

箱をつくることは、ともすれば単純作業に見えるが、ふたと本体をぴったり合わせるには各プロセスに配慮が必要。人から人の手に渡る過程で、不具合に気がつくこともあるとか。

うちの目指すところは、”日本でいちばん四角いものが得意な木材所”。角がピシャッと決まると気持ちがいいってことは誰もが知っていることですが、そのためのノウハウは箱をつくり続けてきた店にしかわからないので」と藤井さんの言葉には迷いがない。

ふたの開け閉めや引き出しの押し引きのとき、中の空気がすーっと押し出されたのを肌で感じる。寸分たがわず閉じる心地よさ、それこそが藤井さんの言う”角がピシャッと決まる”ことだが、桐の材質でそれを可能にするにはワザがいる。というのも桐は気泡状の組織が密集してできているので、季節によって湿気を吸い込んで膨らみもすれば、木肌を閉じて中の水分量を保とうともする。この特性こそ「桐は調湿性に優れる=着物をはじめ大事な衣装の保管に最適」といわれる理由であり、この性質を理解していないと、”開けやすくて閉めやすい”桐箱はできない。

切り出された桐材は、まず組み立て部隊によってのり付けされる。手の細かさが必要となる作業なので、結果的に女性が多いそう。

「角を決めるためには、?箱の中も直角であること、?ふたと本体の合わせを季節に応じて調整すること、これに尽きます」と藤井さん。「日本には桐の産地がいくつかあって、そこには桐箪笥屋と桐箱屋があるのが通例でした。というのも、その土地の気候に適した桐の扱い方があるからなんですね」。もはや全国からオーダーが集まる増田桐箱店は、全方位に対応できるようにワザを駆使しているのだとか。

桐の良さは、調湿性だけにとどまらない。「軽い」「防虫性が高い」「反りなどが少ないため気密性が高い」「手触りがやわらかい」など、いいことずくめ。さすがは古くから優美な木材として扱われてきただけのことはある。

箱の側面を電動やすりを使って研磨。面をやすりに当てるごとに手でなでて、ざらつきをチェック。職人の皮膚感覚がものをいう。
仕上げで頼りになるのも、やっぱり手。写真はふたの内側をやすりで削っているところ。「四方桟」と呼ばれる技法を用いたこのふたは茶箱でおなじみ。気密性が高く、ふたが外れにくい。

最後に価格のことも聞いちゃおう。桐といえば高級品、のはずが増田桐箱店の商品は比較的安価なのはなぜ?
「デザインも自社で行なうので、ロスが出にくい。扱うのは立方体なので、コスト計算もしやすいです(笑)。端材が出ても別の商品に使う技術があるし、価格を抑える努力はしています。昔から日本で大切に扱われてきた桐の魅力を多くの人に知ってもらいたいので」。職人技を駆使して”お値段控えめ”とは、終始一貫、箱づくりのプロであった。

電動やすりに使うサンドペーパー。目が細かいほど減りも早く、コスト減には粗めを使いたいところだが、実際は細かい目の使用頻度が高くなる。

こうしてできた、美しい桐の箱

帯揚げ、帯締めがぴったり収まるサイズ。
「増田桐箱店×七緒」桐小物引き出し

着物や帯を収納するたんすは多いけれど、意外に見つからないのが小物用の収納箱。帯揚げも帯締めも、そして帯留めも、1カ所にコンパクトにまとめて収納できたらコーディネートを考えるときにも便利なはず。そこで考えたのが、帯揚げの幅にジャストサイズの引き出しが3段付いた桐の小物専用収納箱。

引き出しには、帯揚げを丸めて並べても、畳んで並べてもよし。もちろん、帯締めも三ツ折りすれば気持ちよく収まる。専用の仕切り板を使用すれば、帯揚げも立てて収納でき、シワ知らず。手持ちの小物が一目瞭然で把握できるのもうれしい。さらに引き出しにピタリとはまる専用の帯留めケースも考案した。

一般的に引き出しは木材を削り出してつくるものだが、こちらは桐の端材を組み合わせた。その分価格が控えめになっている。

いくつ重ねてもコンパクトにまとまる。
「増田桐箱店×七緒」スタッキング桐箱

帯揚げや帯締め、帯留めなどの小物をひとまとめにできるスタッキング式の桐箱。帯揚げの幅がぴったり収まるよう設計した正方形だから、帯揚げをシワなく、しかも並べて収納できる。専用仕切り板を使えば、色別や季節別など分けられるのも便利。また、桐箱ぴったりの帯留めケースなどを組み合わせて、自分仕様にカスタマイズできる。ちょっと深めの深型は肌着や半幅帯の収納に。欲しい深さの箱だけ買い足して、簡単に増やせるのも◎。

ふたと本体を合わせたときに、ふたがわずかに動くように設計。湿度が高くなる時季でも、閉まり具合に心配はいらない。

驚くほど軽い、桐の小箱で小物がすっきり。
「増田桐箱店×七緒」桐のなんでも整理箱

どんどん増える着物まわりの小物や履き物。コンパクトで持ち運びしやすく、見た目にも美しい収納箱があったら!と願う七緒編集部が、増田桐箱店と開発したのがスタッキングできる「桐の整理箱」。大きさは、帯揚げや帯締めはもちろん、履き物もぴたりと収まる幅と、奥行き。ふた付きでも450gと驚くほどの軽さもポイントだ。

桐箱づくり一筋の職人技による丁寧なつくりで高級感あふれる仕上がりで、重ねて置いてもすっきり収納。調湿性に優れた桐は大切な小物類の保管にも最適。和装はもちろん、様々な用途に使える収納箱としてカスタマイズできる。ふたは小物合わせのコーディネートなど、トレイとして使うことも。


●引用元
買いもの七緒 着物まわり 買いもの帖 2021年度版(プレジデント社)

●スタッフクレジット
文=藤田 優
撮影=繁延あづさ