あの人の愛用品

あの人の愛用品/ミヤケマイさん

和のしつらいの根本にはフレキシビリティーがあります

●ミヤケマイさん 美術家

 涼やかな麻着物を紅型(びんがた)の帯で着こなしたミヤケマイさん。「夏は特に上半身をふわっと、緩く着る方が、自分もらくだし見た目も涼しげです」
 月に一度、着つけ教室で講座も行なう。家庭の中に着物を着る人がいれば自然と教わったであろう「毎日着るもの」としての知恵や工夫を、歴史とともに伝えているそう。着物に限らず、ミヤケさんは日本の伝統的な美術や工芸に見識が広い。「日本では、襖、障子、屏風など仮設の家具、間仕切りをうまく使って生活空間を拡張したり、限定したり、柔軟に利用してきました。衣桁も、そのひとつです。こうして着物を着たり脱いだりするときに使うだけでなく、昔は、着物を掛けて屏風の代わりに目隠しにしたり、隙間風を防ぐカーテンのようにしたりして使われていました」
 もちろん、毎日着る着物を畳むのが面倒で掛けておいたのでしょうけど、と笑うミヤケさんの話を聞いていると、目の前に昔の日本の暮らしの様が浮かび上がってくるみたいで楽しい。
日本家屋で仕切りの襖を外せば空間が広くなるように、着物も解けば反物に戻り、自在に形を変える。西洋では部屋は拡張せず、洋服も生地には戻らない。「日本人は、四角いものを使い回すのに長けています。効率良く、無駄がないんです」
 日本人特有の見立てる力で、現代生活の中でも自在に衣桁使いの可能性を広げられそう。
「夏は特に汗をかくので、脱いだ後に何もかもさっと掛けておけるのはとても助かりますね」

現代の暮らしに溶け込むよう考案したミヤケさんの作品「ドコデモ床の間」

ミヤケマイさんの愛用品

●シンプル衣桁

「たくさん掛けても安定感がありますね」

みやけ・まい 日本の伝統的な美術・工芸の繊細さや奥深さに独自の視点を加え、過去・現在・未来を
シームレスにつなげながら、物事の本質や表現の普遍性を問い続ける美術家。日本美術の文脈を独自の解釈と視点で伝統と革新の間を天衣無縫に往還する。

撮影=桑島 薫 文=高橋マキ

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